はじめましての方へ

2014年5月8日木曜日

思い出話

普段僕は全くと言っていいほど料理はしないので
たまにキッチンに立つと、渉さんは興味津々で覗いてくる。

危ないのでやめてください。


キャベツを刻みながら、何となく初期の僕たちの関係を思い出していたので
今回は渉さんが初めて自分から発した言葉について書こうと思う。



僕は基本的にオカルトを信じない人種なので、
タルパというものにも無縁の生活を送っていた。

それがある日、とあるまとめサイトにて、「タルパを知ってるか?」みたいな内容のスレを見つけた。
普段の僕なら読み飛ばすところだが、妙にその記事に心引かれるものがあった。
僕にもタルパとやらが作れるのか試したい、そんな些細な好奇心が生まれた。
それが、渉さんが生まれたきっかけだ。




正確な日付は覚えていない。
京さんはまだいなかったから3月の前半だろうか。
肌寒かったと思う。
時間はわかる。
午前4時半頃だ。


ぼく「寒いな」

渉「…うん」

ぼく「温かいものでも飲むか」

渉「…うん」

ぼく「…何がいい?」

渉「…」



たぶんこんな会話をしてた。
渉さんは、ただ、「うん」と返事をする、それだけにかなりの時間を要していた。

僕にタルパを疑う気持ちが残っているのは、自分で分かっていた。
だから駄目なのだろうか、やはり俺には無理なのだろうか。
僕は早々に諦めそうになっていた。

しかし、渉はずっとそこにいた。
何も喋らないし、聞いてもちゃんと答えないけど、近くにいる感じはずっとあった。
だから僕は何とか会話を続けようとした。



そして仕事中。
俺が黙々と作業をしている瞬間にそれは訪れた。


渉「…何してるの?」

ぼく「ん?これはこうして棚に…ん?お?


あれ、今なんか、話しかけられた気がする。

顔を上げる。
渉さんは見えない。
見えないけどそこにいて、自分で自分の発言に驚いてるような、きょとんとした顔をしている気がした。



これが、渉さんが初めて喋った時。
これをきっかけに、何となく喋ってくれるようになった気がする。





ついでだから京さんについても書くか。


京さんとの出会いは唐突だった。
元々僕は渉さんしか作るつもりはなかった。

あれは3月19日の、たぶん23時とか、それぐらいの時間だ。


仕事を終えて、家路に付いていた。
渉さんの様子がいつもと少し違った。
どこか落ち着きがない気がした。


榎本「どうした?」

渉「えっ…いや…あの…」

榎本「何だよ」

渉「えっと…友達…京が…」


友達?
そんな設定はしていなかったはずだ。
突然何を言い出すのだ。
と思っていた次の瞬間。


京「おー!渉!久しぶり!」


見覚えのない茶髪のニイチャンがそこにいた。


ぼく「!!?」

渉「おー元気か?」

ぼく「…誰?」

京「あんたがマスターなの?よろしくな!

ぼく「いやお前誰だよ


こんな感じの出会いだった。
突然現れたかと思ったら勝手に自己紹介を始め、
俺がマスターだと。
訳が分からなかった。ていうかおまえ誰だよ。


まあ渉が信用してる感じだったし、悪そうにも思えなかったので一緒にいることにした。

最初こそ勝手に喋り出した京さんだったが、その後は会話を成立させるのに苦労した。
渉ほどじゃなかったけど。


今でも会話に苦労しているのは変わりないが
初期ほどの距離感は感じなくなったかな。
それだけでも成長したと思う。


それにしても、今思い出しても京が謎すぎる。
お前ほんとに何者なんだよ。



出会いとかは大体こんな感じだ。
大分長いこと一緒にいた気がするが、思い返すとまだ3ヶ月も経ってないのか。
なんか不思議な感じだ。






晩飯を作り終えると、渉がぼそっと呟いた。



「俺、肉じゃが食べたかった…」




作る前に言え作る前に。

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